使うと増える

 世の道理である。

走って体力を使えば体力は増えるし、逆に一日中寝てばかりいれば、体力が減って毎日が疲れてばかりになる。

使ったら増えるし、使わなければ減ってしまう。

これはいろんなことに当てはまります。

例えば、いつもイライラしてる人がいるとします。

会社に行けば上司や部下に文句を言い、コンビニに行けばアルバイトに八つ当たりし、ニュースを見れば政治家を罵倒する。

世の中の多くの人は、いつもイライラしているように見える。

「周りは自分をイライラさせることばかりだ」と彼らは本気で思っているが、実は自分で自分をイライラさせていることに気づいていない。

それはちょうど幼児が自分のあまりの泣き声に気づいて、さらに泣いてしまうのに似ている。

または犬が自分のしっぽとは気づかず、それを追いかけてくるくる回っているのに似ている。

幼児や動物ならかわいいものだが、大人でこれをされるのはかなり迷惑である。

自分の怒りに気づいて、さらに怒るのは幼児と同じである。

なぜ彼らはそのことに気づかないのか。

おそらく、自分の常識や感情、行動などを疑ったことがないからではないだろうか。

自分の考えていることや感情は、「それが当然のことであり、私はそのように不快にさせられ、傷を負っているのだ」と思っているのであろう。

 大人になるとは脱皮をするように、自分の殻を何度も何度も内側から破いて自分を広げることである。

何度となく殻を破いても、たちまち少し大きな殻に必ずぶち当たってしまう。

そして、少し大きな殻にぶち当たるたびに、「ああ、今まで私はなんと狭い考えでいたものか」ということを発見し、反省する。

本を読むとは、そのような自分を覆っている殻を発見することである。

自分が気づいていない思考の癖や常識に気づくことである。

もちろんそれができるのは、本を読むことだけではありません。

人に会って話をしたり、何か創作したり、そういったことでも気づくことはできる。

しかし、効率が良いのは本を読むことであると思う。

誰かに会うためには時間を合わせなければいけないし、尊敬している人なら向こうがあってくれるとも限らない。

そもそも、現在生きている人しか会えない。

その点、本は自分の自由な時間に読むことができ、相手はそこで待っており、何千年も前の人と会うことができる。

 ソクラテスは家に友人を連れていくと、妻であるクサンティッペにバケツの水を浴びせかけられた。

驚いた友人は、あとでソクラテスになぜ怒らないのか、と聞いた。

ソクラテスは言った。

「にわか雨に打たれて怒る人はいないよ」

やはりソクラテスは偉人である。