すごい物理学入門 カルロ・ロヴェッリ ①
本書は現代物理学について、あまり知識のない、または全く知らない人のために書かれた本です。
今まで物理学に縁のなかった人や、理解しようとしたけど挫折した人、そのような人にとって最初の一歩にしやすい、わかりやすい本です。
どんな学問でもそうですが、初学者はそれらの個々の問題についていきなり入っていくと挫折しやすいですが、まずは大まかな全体像を把握して、それから個々の問題を全体から位置づけて考えると理解しやすくなります。
哲学を学ぶのに、いきなりヘーゲルやニーチェやハイデガーの個別の思想を学ぶのではなく、哲学がどのように生まれ、否定されてきたかを哲学史からまずは学ぶほうが関係性が読み取れ把握しやすいのと同じです。
現代物理学についての哲学史のような本が、この「すごい物理学入門」です。
ここから物理学を大まかに理解すれば、一般相対性理論や量子力学などの個々の問題に深く入っていきやすいでしょう。
今回は本書を3回に分けて紹介していきます。
さて、原著を直訳すると「七つの短い物理の授業」となります。
物理学の入門書なので、「短い」というのがポイントです。
あまり長すぎると、初めて学ぶにはとてもついていけません。
本書は現代物理学を簡潔に、わかりやすく、なによりも面白く読ませることに力を入れていることが伺えます。
著者はイタリアのヴェローナ生まれ、専門は「ループ量子重力理論」という、『「一般相対性理論」と「量子力学」を統合しようとする試の一つ』です。
この「すごい物理学入門」はイタリアはもちろん、欧米各国でベストセラーになり、この本の内容をさらに突っ込んだ「すごい物理学講義」という本も出しています。
哲学や文学にも精通していて、詩的な文学的な筆致ですが、実際にイタリアで「メルク・セローノ文学賞」と「ガリレオ文学賞」を受賞しているのです。
さて、本書の内容に入っていきます。
まずは本書の第一章である一般相対性理論です。
一般相対性理論が発表される10年前、1905年にアインシュタインは特殊相対性理論などの論文を発表して一躍時の人となりました。
この「特殊相対性理論」は『時間というものは必ずしも誰にとっても同じように経過するわけではない』ということを明らかにしたものです。
実際、一緒に生まれた双子であっても、山の上に住んでいる人と、海の近くで住んでいる人では、長い年月が経つと年齢が異なってきます。
同じ双子であっても何らかの状況が違ったら、時間の進み方も変わってくるのです。
不思議な話ですが、そのように証明されています。
ただ、アインシュタインはこの「特殊相対性理論」に不満がありました。
引用します。
『重力について、つまり物体がどのようにして落下するのかについて、それまで一般に知られていたこととは相いれない矛盾があったからです。相対性理論に関してまとめられた記事を書く中でそのことに気づいたアインシュタインは、物理学の父と呼ばれるニュートンの提唱した厳然たる「万有引力の法則」さえも見直し、新たな相対性理論とつじつまが合うようにする必要があると考えました。』
「特殊相対性理論」で時間については明らかにできたのですが、重力については納得できないところがありました。
そこでアインシュタインは十年という歳月をかけ、遂に1915年「一般相対性理論」という新しい重力理論を完成させます。
あまりにも素晴らしい論文だったため「現存する物理学の理論の中で最も美しい理論」とロシアの物理学者レフ・ランダウによって称賛されることになります。
では「一般相対性理論」どのようなものでしょうか。
「一般相対性理論」は新しい重力の理論ですので、まずはそれまでの重力理論を見ていきましょう。
初めにニュートンがいます。
ニュートンは『物体がなぜ落下するのか、そして惑星がなぜ回転するのかを説明しようと試みました。』
これはご存じのように「万有引力の法則」で、その名の通り全ての物体は互いにひきつけ合う力を持っている、つまり引力があると考えました。
ですが、その引力がなぜ何もない空間で働くのか、それは解明されませんでした。
空間には何もないのに、なぜ引力が働いて物体同士がひきつけ合うのか、その謎は残ったままでした。
何もない空間に力が働いているというのは、それは目に見えなく手で触れられないだけで本当は何かあるのではないか、と考えました。
それから150年ほど経ち、イギリスの物理学者であるファラデーとマクスウェルが、その空間内に「電磁場」と呼ばれる要素を付け加えました。
この本の著者によりますと、
『電磁場というのは、どこにでも広がっている実際に存在するものであり、電磁場となって空間を満たしています。それは湖面に広がる波のように振動や波動を起こし、電気エネルギーを「あちこちに運ぶ」ことができると考えられたのです。』
空間内に電磁場というものがあり、電気エネルギーを運ぶことができます。
それは目に見えないし手で触れることもできませんが、実際にあることが証明され、数式により電磁場の性質が示されました。
アインシュタインはここで考えました。
空間の中に電磁場があるのなら、重力場というものも存在するのではないかと。
アインシュタインはそう思い、ここで天才的なアイデア、コペルニクス的発想が生まれます。
それは『重力場は空間の中に広がっているのではなく、重力場こそが空間そのものなのだと考えたのです。これが、一般相対性理論の概略です。』
電磁場のように空間内に重力場が広がっているのではなく、重力場そのものを私たちは空間と言っていたのだ、ということです。
重力場と空間はイコールです。
そうなると、空間というものは「何もないもの」ではなく、「物質的な要素」のものであり、波のように揺れたり、ゆがんだり、曲がったりすることがわかりました。
空間は木や水や椅子やコップなどと同じ「物質的な要素」を持つもので、平面なのではなくゆがんだり曲がったりします。
木からリンゴが落ちるのは引力があるからだというのが、ニュートンが発見した法則です。
ですが、アインシュタインは、リンゴが落下するのは引力があるからというよりは、空間がゆがんでいるからリンゴが落下するのだ、と考えました。
空間のゆがみによって、私たちの目にはリンゴが落下するように見えるのだ、と考えました。
そして地球が太陽の周りを回っているのも、引力によって引き付けられつつ回っているというよりは、太陽が周りの空間を歪めるために起こることになります。
要するに、地球は太陽の周りを曲がって進んでいるのではなく、太陽によって歪まされた空間をまっすぐに進んでいるのです。
その空間のゆがみは物質があるところはどこでも発生します。
ゆがみの大小は様々ですが、太陽でも、地球でも、コップでも、私たち人間でも、物質があるところはどこにでも空間のゆがみが発生します。
これが「一般相対性理論」のシンプルな内容です。
このアインシュタインの理論による方程式から、いろいろなことがわかってきました。
その一つがブラックホールです。
引用します。
『大きな恒星が燃料の水素をすべて燃やし尽くすと、最後には消えてしまいます。そして残った燃えかすは、燃焼熱によって支えられることがなくなり、自分自身の重みでつぶれて崩壊し、しまいには時空を著しくゆがめるため、そこに生じた文字通りの穴に沈み込んでしまいます。これが有名なブラックホールです。』
恒星が自分自身の一部である水素を燃やし尽くすと、自分自身の重みでつぶれてしまいます。
自分自身の重みでつぶれてしまったその時に、周りの時空を歪めてしまいブラックホールができてしまうのです。
実はブラックホールは今や、宇宙空間に数百ほど観測されてもいるのです。
また、ビッグバンもアインシュタインの方程式により導き出されたものです。
引用します。
『宇宙は静止状態にはいられず、膨張を続けなければならないことが示されました。そして1930年、宇宙の膨張が実際に観測されたのです。
おなじくアインシュタイン方程式は、この膨張が、超高温で超高密度の新しい宇宙の爆発によって引き起こされていることも予言しました。いわゆるビッグバンです。』
宇宙は膨張しつつ拡大しています。
宇宙を外から見ることが不可能なのに、どうやって膨張を観測したのかは不明ですが、実際に膨張しているのが観測されたようです。
そしてこの膨張はビッグバンと呼ばれる、宇宙の爆発によって引き起こされています。
小さな固まりである宇宙からビッグバンが起こり、徐々に膨張して現在のような広大な宇宙となっているのです。
このように、アインシュタインの理論は様々なことを予言し、証明して見せました。
最後に著者は要約しています。
『つまり、アインシュタインの理論によって、宇宙は爆発とともに誕生し、空間は出口のない穴に沈み込み、時間は惑星に近づくほどゆっくりと流れ、果てしなく広がる星間空間は海面のように並み経っているという、驚きに満ちた世界の様子が記述されたのです。』
そして、このアインシュタインの理論は「空間と場は同じものである」というひらめきからすべてが出ているのです。