直感力を高める 数学脳の作り方 バーバラ・オークリー ①

直感力を高める、数学脳の作り方 バーバラ・オークリー著の紹介をします。

本書は2014年にアメリカで発刊されると瞬く間にベストセラーになり、世界10か国以上で翻訳された本の訳書です。

原著の題名、「数字に強くなる考え方―数学と科学に抜きんでる法[たとえ代数で落第点を取ったとしても]」という文字通り、数学と科学を主に念頭に置いて、それの勉強の仕方、マインドセットなどを具体的に詳しく述べられています。

ですが、それだけではなく、記憶力を高める方法やアイデアを出す方法など、数学や科学以外にも使える、普遍的な勉強法も紹介されているのです。

ですので、数学や科学を勉強しなおしたいという人にはもちろん、記憶力をよくしたいだったり、会社で使える実用的なことが知りたいだったり、良いアイデアを出す方法を知りたいだったり、様々なことまで幅広く応用できるのです。

さらにそれだけでなく、そのような知的営みに対しての基礎を堅牢で強固なものにするための方法も紹介されています。

知的営みの基盤がしっかりとしていればいるほど、より私たちが実生活で有益なことができるのは当然です。

例えば高い建物には土台を支えるために、土の中を深くまで支柱を埋め込んでいくように、私たちの知的生産をより豊かにするためには、その基礎をがっちりと固めなければなりません。

基礎をがっちりと固めるためには単に時間をかけるだけではなくて、科学的なデータに基づいた勉強法をするに越したことはありません。

そのような科学的なデータを駆使しながら、本書は説得力のある勉強法を紹介しています。

 本書には数多くのポイントがあるのですが、私が特に有効だと思うものを挙げていこうと思います。

 まずは「集中モード」と「拡散モード」です。

『今世紀初頭以来、神経科学の脳研究は目覚ましく発展し、脳は非常に注意深い状態とリラックスした安静状態の二種類のネットワークを適宜切り替えていることがわかってきた。この本では前者と関係のある思考モードを「集中モード」と、後者の場合を「拡散モード」と呼ぶことにしよう。』

「集中モード」とはその名の通り、脳が集中している状態、「拡散モード」はそれに集中をしていないがぼんやりと考える状態、といったところでしょうか。

ぼんやり考えると言ってもそれは意識的に「ぼんやり」と考えるのではなく、無意識に脳の奥のほうで考えているような状態なのです。

散歩していたり、リラックスしていたりするとき、突然、今までずっと考えていた問題の解決法がわかったり、アイデアが生まれたりしたことはないでしょうか。

それは「拡散モード」が生み出した功績なのですが、これは自分の中にもう一人の別の自分がいるようなものです。

一人は集中して問題を考えている自分です。

これは「集中モード」と呼ばれます。

もう一人は集中をした後に、散らばった思考の破片や断片を集めて整理し、まったく別の思考や問題とを関連させながら無意識で考える自分です。

この無意識の自分が働いているときを「拡散モード」と著者は呼んでいます。

古来から馬上(ばじょう)、枕上(ちんじょう)、厠上(しじょう)という言葉があります。

これは考え事をするのに適した場所のことで、要するに馬に乗っているとき、寝ているとき、トイレにいるときが、一番良いアイデアが出るということです。

馬上は、現代でいえば車に乗っているときや、電車に乗っているとき、散歩しているときなどでしょうか。

馬の上、枕の上、トイレにいるとき、私たちは特に何を考えることもなしにぼんやりしています。

そのぼんやりしているときに、ふと今まで思い悩んでいたことや、考えていたことの解決策が出てくることが多いのです。

風呂の中で「エウレカ」と叫んだアルキメデスも、おそらくぼんやりと考えていたのでしょう。

昔から「拡散モード」の重要性は認識されていたのです。

この「拡散モード」に入るための重要なことは徹底的に「集中モード」を通り抜けることです。

何分も、時には何時間も「集中モード」に入った後ではないと、「拡散モード」の特徴である「無意識に考えることもなしに考える」ことができないからです。

拡散するためにはその対象が必要なのですが、その対象を得るためには集中することが必要になるのです。

 このように「集中モード」と「拡散モード」はどちらも私たちが勉強したり創造力を発揮したりするときには重要になります。

どちらか一方というわけではなく、どちらも必要です。

そして、より難しい問題を解決したり、より独創的なアイデアを出したりするときは、この「集中モード」と「拡散モード」を行ったり来たりする必要があります。

「集中モード」から一度「拡散モード」に行って終わりなのではなく、何度も何度も往復する必要があります。

まずは「集中モード」によって対象を論理的に考え、「拡散モード」でひらめきを得ます。

その「拡散モード」のひらめきから「集中モード」でまた論理的に考え、そしてまた「拡散モード」で処理していく。

この二つのモードを繰り返していくことで、私たちの創造性は発揮されるのです。

そしてこれを繰り返すということは、そこには時間が必要になる、ということです。

ですので、例えば報告書の締め切りが2週間後という場合、「まだ時間があるから」とつい先延ばしてしまいますが、好結果を得たいのであれば早めに手を付けて「集中モード」にするのが一番です。

そうすれば後の「拡散モード」と「集中モード」への行き来する時間が得られるのですから。

そしてこの初めの「集中モード」では完成度を求めないほうがいいです。

完成度を求めてしまうと些細なことで思い悩んで先に進まなかったり、次に「集中モード」に入るのが億劫になってしまいます。

初めは全体像をつかんでどこが難しくて、どこがわからないかといったことをつかむことが重要です。

それから脳を「拡散モード」に移行させて、ひらめきを待ちます。

良いひらめきが出なくても、脳の中では無意識に思考しているのだと信じて、また「集中モード」に入る。

そのように繰り返していけば、良い報告書が書け周りの評価も上がるでしょう。

 本書を引用します。

『「集中モード」と「拡散モード」の違いは、懐中電灯を考えるとわかりやすい。懐中電灯の光を狭い場所に集中させて遠くまで照らし出すこともできれば、弱い光ながら広範囲に投げかけることもできる。前者が集中モードの、後者が拡散モードの状態だ。

 概念でも問題でも未経験の事柄を理解したいときは、正確さが第一の集中モードをオフにして「大局的な」拡散モードをオンにし、好結果を生む新しい取り組み方を手に入れよう。脳に銘じれば拡散モードがオンになるわけではないものの、コツを呑み込むと集中モードと拡散モード間の移行がスムーズになる。』

 できるだけ意識的に「集中モード」と「拡散モード」の移行ができれば、それだけ有利になるのは当然なのです。

ではどうしたらその二つのモードの移行はスムーズになるのでしょう。

コツとは一体どのようなものなのでしょう。